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岡山地方裁判所 平成8年(わ)34号 判決

裁判所書記官

三信順裕

本籍

岡山市西川原一丁目四三三番地の一

住居

同市西川原一丁目七番二八号

職業

鉄工業

藤井肇

昭和一五年八月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官鎌田隆志及び弁護人嘉松喜佐夫各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山市西川原一丁目七番二八号に居住し、同一丁目二番一六号において「藤井工業」の名称で鉄工業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得金額に関する正当な収支計算を行わずに適宜の過少な所得金額を計上するいわゆるつまみ申告を行うなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際総所得金額が一億四七九四万〇二二五円であったにもかかわらず、同三年三月一四日、同市天神町三番二三号所在の所轄岡山東税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が五九七万三〇〇〇円で、これに対する所得税額が五九万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六九二五万六五〇〇円と右申告税額との差額六八六六万二五〇〇円を免れ

第二  同三年分の実際総所得金額が一億七三九二万三〇六三円であったにもかかわらず、同四年三月一二日、前記岡山東税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が五九一万七四五〇円で、これに対する所得税額が五四万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八二五一万二五〇〇円と右申告税額との差額八一九六万五五〇〇円を免れ

第三  同四年分の実際総所得金額が八六三八万九四二七円であったにもかかわらず、同五年三月一〇日、前記岡山東税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が五九八万七六三〇円で、これに対する所得税額が五四万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三八七三万円と右申告税額との差額三八一八万五二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

( )内の数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を表す。

判示事実全部(冒頭の事実を含む)について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(38ないし41)

判示第一ないし第三の事実について

一  藤井侑子の検察官に対する供述調書(6、7)

一  藤澤末博の大蔵事務官に対する質問てん末書(5)

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書(8)、雑収入調査書(9)、期首棚卸高調査書(10)、仕入金額調査書(11)、期末棚卸高調査書(12)、租税公課調査書(13)、水道光熱費調査書(14)、旅費交通費調査書(15)、通信費調査書(16)、広告宣伝費調査書(17)、接待交際費調査書(18)、損害保険料調査書(19)、修繕費調査書(20)、消耗品費調査書(21)、福利厚生費調査書(22)、給料賃金調査書(23)、外注費調査書(24)、利子割引料調査書(25)、雑費調査書(26)、減価償却費調査書(27)、貸倒損失調査書(28)、専従者控除調査書(29)、申告事業所得金額調査書(30)、社会保険料控除調査書(31)、生命保険料控除調査書(32)、損害保険料控除調査書(33)、配偶者控除調査書(34)、配偶者特別控除調査書(35)、預貯金調査書(36)及び有価証券調査書(37)

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(1)

判示第一の事実について

一  押収してある平成二年分の所得税の確定申告書一枚(平成八年押第二五号の二)

判示第二の事実について

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書及び同年分所得税の予定納税額の通知書控一綴(平成八年押第二五号の二)

判示第三の事実について

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書及び同年分所得税の予定納税額の通知書控一綴(平成八年押第二五号の一)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪について懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同条二項を適用することとし、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人がいわゆるつまみ申告の方法により、三年間で約一億八八八一万円にのぼる巨額の所得税を免れた事案である。

被告人は、同和運動団体を経由して所得税申告をすれば、税務署は調査をしないとの風評を信じ、同和運動団体に加入したうえ、本件各犯行に及んだものであり、納税義務の自覚に著しく不足していたということができる。

しかし、被告人は納税が国民の義務であることを自覚し、所得税等を納付したこと、今後は税理士に依頼して税務申告をすることを誓っていることなどの諸事情を総合考慮し、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。(求刑懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)

(裁判官 市川昇)

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